2014-05-25

みどり使用音楽巡礼の旅 #2 世界選手権優勝のあの曲



Over 60 Minutes


1988-1989シーズン フリープログラム



前回の記事では使用曲をタイトルにしていたのですが、今回はそれにするととても長くてややこしいことになるので簡潔にこのようなタイトルにしました。

伊藤みどりの世界選手権優勝は一度だけです。
意外かと思われるかもしれませんが、苦手とされた規定がまだあった時の優勝です。
(規定6位 ⇒ オリジナルプログラム1位(暫定3位) ⇒ フリー1位・総合優勝)
前年の1988年カルガリーオリンピックの演技は女子選手の概念を変えたとまで言われましたが、メダリストがこぞって引退した一年後のこの大会でのみどりの演技で女子シングルのフィギュアスケートの歴史が今大きく動いた・一気にスポーツへと進化したのをはっきりと感じ取りました。

この時は出場していないトーニャ・ハーディングが2年後にはトリプルアクセルを習得、クリスティ・ヤマグチも後に3Lz-3Tという難易度の高いコンビネーションを取り入れます。
トリプルアクセルまでは無理でも、女子がトリプル5種類を取り入れる方向性を位置づけ流れを作り引っ張っていって女子選手の技術向上が底上げされたのは間違いなく伊藤みどりの存在があったからこそだったと思います。




1989年 フランス・パリ世界選手権



Midori Ito 1989 Worlds LP (USTV)


こちらのブログ記事でアメリカ版解説の翻訳をされています。(ブログ主様ありがとうございます)
解説者はスコット・ハミルトンです。
スローパートの間はまったく喋ってません。それだからこそ興奮して喋りまくる時との対比がわかりやすい。
演技がまだ終わる前から観客はスタンディングオベーションでみどりを賞賛、歓声と拍手がいつまでも鳴り止みません。そしてキスクラへ戻る前に電光掲示板に表示された6.0がズラリと並ぶ空前絶後の点数。

歴史が動いた瞬間。


Midori Ito 1989 Worlds LP (JPTV)

こちらは当時日本人が見ていた映像。杉田秀男氏・平松純子さん解説。
トリプルアクセル成功の興奮直後のトリプルフリップ、着氷直後の平松さんの「はい、これもセンコウ(成功)」の名(迷)言。
動画の音質または解説の音量が大きめになっているせいかもしれませんが、アメリカ版動画を見た後だと会場(観客)の音量がかなり抑えられているように聞こえますね。日本放送では逆イーグルからの3Loが決まったあとの

「きゃあぁぁーーー!」
「ヒュゥゥーーー!」

という歓声・指笛がよく聞こえません。

大事な大事なフィニッシュポーズでカメラが満知子先生のドアップに切り替えていたのが当時からずっと不満だったんですよ。後になってフィニッシュはこんな表情してたんだ、演技直後はこうやって観客の大声援に応えていたんだ、って。
同時に再生するとわかりますが、アングルもアメリカ版とは違っています。日本版はなぜ天井カメラなんか挿入してるんだ・・・演技後の余韻に浸りたいのにリプレイばっかり流してるんじゃないよ!

おそらく“あの漫画”を知らないであろう多田アナウンサーが思わず口にした

恐ろしい子ですねこの人は…!


そんな時代の革命児・現実の世界においてリアル恐ろしい子みどりの世界選手権初優勝は

  • 日本人(アジア)選手初の世界選手権優勝
  • 女子選手初の世界選手権でのトリプルアクセル成功
  • 女子選手初の(国際大会で)トリプル6種類成功
  • 技術点で満点(6.0)が5つ

という、記録にも記憶にも永遠に残る演技となりました。あーなんて恐ろしい子なの!!
技術点6.0に関しては、当時の6点満点の採点では5.9が並べばほぼ満点に近い点数、といった認識であり、6.0という点数は余程のことがない限りは出さない・お目にかかれない、そういう傾向だったように記憶しています。

だから6.0が5つも出されたっていうのは空前絶後の出来事だったんです。
今の採点方式だったらどんな点数が出たんだろう。翌年のシェヘラザードで滑ったワールドではサルコウがダブルにはなったけど、この時の演技よりも格段に表現力も身について素晴らしい内容だった。
伝説を作り上げる革命児っていうのはまさにこういう人の事を言うのだろうと今振り返ってもそう思います。

会場はベルシー体育館(パレ・オムニスポール・ドゥ・パリ・ベルシー)、エリック・ボンパール杯でお馴染みの会場です。
って言っても近年はなぜか会場の照明を落としてフェンスの広告もブルー一色で、一見同じ会場とは思えませんが。赤い観客席は変わってませんね。


音源は実はコレなんです、コレ!!



さて、音楽の観点での話に移ります。

これだけの歴史的演技でもあるので、印象的なこの曲を知りたいという方も多いのではないかと思います。
この演技からもう四半世紀も経ったのですね。

『恋人たちのロンド』という曲名だと思っている人が多いのはWikipediaにそういう記載がされているからかと思われるのですが、正式な曲名は

フランク・ミルズ作曲
A Classical Rock ア・クラシカル・ロック
Concerto No.1 For Piano
 ピアノ、ロック・バンド、オーケストラのための協奏曲第1番
Rock Band And Orchestra, First Movement, Andante
Second Movement, Adagio 
Third Movement, Allegro


この二曲をミックスしたものです。
「二曲」と書きましたが、Concerto No.1 For PianoはCDではひとつのトラックに、iTunesでは3つの楽章それぞれに分けられています。あーややこしい!

実は本人の自伝本の中で『恋人たちのロンド』とはっきり記載されているので、(自伝に書いてあるのだから信用できるだろうと)後にそれを元にして各方面で引用されて広まってしまったのではないかと思われます。自伝と言っても本人へのインタビューを元にまとめられたものではありますが。
(数年前に出版された野口さんの本もそうなってた・・・)
曲を編集したのは当然みどり本人ではないので、スケーター本人が曲の詳細を事細かに把握しているというものではないようにも思います。(とフォロー)
それでも、確かに長い曲名で覚えきれないかもしれませんが、『Chickadee(恋人たちのロンド)』という曲と演技で使用されたConcerto No.1 For Piano』『A Classical Rockはまったく別の曲であるということをここで私は声を大にして言いたいのであります!!

3 日本でのフランク・ミルズの人気
フィギュアスケートの伊藤みどり選手が1989年パリ世界選手権でフランク・ミルズの曲を使ったりしていました。(この時使われた曲名は、一部サイトでは「恋人たちのロンド」となっていますが、正しくは、同名のアルバムに入っている「ピアノ、ロック・バンド、オーケストラのための協奏曲第1番」です。)

こちらのサイトも参考にさせてはもらいましたが、微妙に違っていますね。

Wikiってついつい参考にしてしまうし書かれている内容を鵜呑みにしがちだけど、編集する人・出典次第では必ずしも確実に信用できる内容ばかりではないってことです。

出典:自分の耳で確かめた。自分の耳がソース。

これでいいです。この記事を読んでもらった人に知ってもらえればそれでいいです。


元はこういう曲なんです




A Classical Rock (3:07)
  
Concerto No.1 For Piano (13:00)
Rock Band And Orchestra, First Movement, Andante (5:11)
Second Movement, Adagio (3:45)
Third Movement, Allegro (4:04)

原曲はこんな曲で、ここから4分間の演技のためにあのような編集がなされてドラマが生み出され歴史が作られた、それを噛み締めることでこれまで何度も見た演技であってもまた新しい視点で見られるかもしれません。

Concerto No.1 For Pianoの間にA Classical Rock(トリプルアクセルを跳んだところ)を挟んで、Concerto No.1 For Pianoのスローパート(Second Movement, Adagio) ⇒ 全体的にリピートを多用している部分は省略。
フィニッシュポーズのピアノのピロリンピロリンピロポロポロロ~ンという音だけは(全日本選手権・世界選手権で)違う曲または独自に別の音を加えたものと思われます。
簡潔に説明するとそんな感じで。


CD・iTunesはコチラ




Rondo, フランク・ミルズ




iTunes - ミュージック - フランク・ミルズ「Rondo」


上のCDはあれもこれも聴いたことある!っていう心地よいフランク・ミルズサウンドが堪能できておススメです。喫茶店の有線から流れてる、そんなイメージに浸れます。
フランク・ミルズの曲は昔ラジオでよく流れてました。オールナイトニッポンの(地方局の)CMタイムとか。Music Box Dancer(愛のオルゴール)は耳にすれば「ああ、この曲かぁ!」ってわかるくらい有名な曲です。タイムスリップしたみたいな気分を味わえますね。

下のジャケットはCDとしては現在発売されていないようですがiTunesで個別にダウンロードできます。
こちらにはA Classical Rock』『Concerto No.1 For Pianoの他に一曲目に『Chickadee(恋人たちのロンド)』も収録されています。


どうですか?全然違う曲でしょ?


女子選手初のトリプルアクセルを生んだ曲の原型



ここだけ2016年03月22日 追記

みどりの世界選手権優勝演技は有名なのに、使用曲はいつまで経っても『恋人たちのロンド』と間違って認識されているのが現状。「イナバウアーは上体を反らす技じゃない、足元なんだよ!」って何度も何度も言ってるのにいつまでも誤解されたままっていうのと同等のモヤモヤがあります。

久しぶりにこの記事を見直して、この記事を書いた当時はまだなかった『Chickadee(恋人たちのロンド)』の動画を上に埋め込んでみました。
さらにいろいろ調べまくっていたら新事実とお宝掘り当てたどー!!

いやー、よくこのサイトのページに辿りつけたもんだと我ながら感心します。だってバス情報満載のサイトに隠れるようにして設定してあるページですよ。ピンポイントで検索しないとまずここに気が付くことはなかったでしょう。
これを書いている方は相当なフランク・ミルズマニアのようです。ここを拝見して、これまで実にややこしかった謎がようやく解けてきました。(まだちょっと自信なし)


1980年、『The Frank Mills Album』というアルバムが日本では『ハッピー・ソング』というタイトルで1980年に発売されました。(このアルバムはCD化されていません)
二年後の1982年にアルバム『Rondo』が発売、日本ではアルバムジャケットが違っていますが収録曲は同じで「恋人たちのロンド」というタイトルで発売されます。
そう、これこそが使用曲名が間違えて認識されてしまった元凶と思われます。

 

『ハッピー・ソング』B面ラスト収録の「Breakaway(ブレーカウェイ)」という曲が後に『Rondo(日本発売タイトル・恋人たちのロンド)』で「ア・クラシカル・ロック(A Classical Rock)」という曲名に変わってアレンジも変えて再収録されることとなったのです。
この情報に辿りつけたのは、『恋人たちのロンド』のアルバムに記載された曲名「ア・クラシカル・ロック(ブレカウェイ)」に付いている副題に「おや?」と思ったから。
ここでそのレアな音源も見つけたのでご紹介。

Happy Song (ハッピーソング)(LP)B面 6.ブレーカウェイ(Breakaway) 

ほほぅ、なるほどねぇ。耳に馴染んだ「A Classical Rock」と比べると未完成のデモテープを聴いているような感じ。でもこれが原型となってブラッシュアップされてフィギュアスケート史に残る歴史的トリプルアクセルを生んだのかと思うと感慨深いものがあります。

いやー、ここまで調べあげた私のこのキチガイじみた執念とド根性、誰か褒めてくれる?w 誰も褒めてくれなくても自分で自分を褒めたいと思います。女子マラソンのオリンピック選考は何十年経っても進歩しねーな。はい、これもセンコウ!(by.平松さん)

なぜこんなややこしいことになっているかというと、レコード発売のみでCD化されなかったり、カナダだけで発売されて日本では発売されてなかったり、後になってあちこちから寄せ集めたベスト盤があったりというのが混在していて、中には残念ながら廃盤になってしまったCDもかなりあって、ちょうどレコードからCDへ切り替わろうとしている時期であったことも関係しているようです。
みどり使用曲の本当の音源だけが知りたい人にはそこまではどうでもいい情報だったかもしれませんが参考まで。

・・・おや、若い頃のフランク・ミルズが角野卓造もしくはスーザン・ボイルに見えるんだけど?卓造じゃねーよ!



解説抜きで演技と曲を堪能してみましょう



Midori Ito 1989 Worlds LP : No Commentary

記事の最初に貼り付けた英語解説・日本語解説の動画は皆さんよく目にされているかと思いますが、ここまで読んだ後で解説がなにも入っていないこの動画を見てもらうと、会場の空気感・観客のボルテージの度合いを今まで以上に感じてもらえるのではないでしょうか。
動画の最後にConcerto No.1 For Pianoの元の音源が少しだけ流されています。


女子のフィギュアスケートでここまで観客の心を自然と熱くさせた選手がいたでしょうか。
もちろんどの時代にも強い選手・華やかな選手・個性的な選手、様々な持ち味の選手はいたわけだけど、とりわけカルガリー五輪、1989年フランス・パリ世界選手権、1990年カナダ・ハリファックス世界選手権はこの東洋の小さな女性が今目の前で「常識」を打ち破っている、そんな歴史的瞬間に立ち会い目撃したのだという観客の興奮が四半世紀を経た現在も鮮やかに蘇ってきます。

後半に3T-3T、直後のフライングシットスピン。3Sからバレエジャンプ、とどめの2Aで高速アップライトスピンフィニッシュ。
いつもあまりにも簡単に跳んでいたので、演技終盤にこれだけのことをこなすのがどれほど難しくて凄いことなのかあの頃はよくわかっていなかった。
ハミルトンは興奮の中でも「芸術点は出し過ぎ」だと感じたようで、確かにこの頃はまだ動きは硬くて洗練されているとは言えないけれど、みどり自身から湧き出てくるパワー・他を圧倒し凌駕する存在そのものが芸術作品なのだと今はそう思える。
音楽が盛り上がるところ・曲のアクセントとなるところでぴったりジャンプを跳ぶ、音を掴むのがうまいのも天性のものでしょう。

唯一無二。
みどりの前にみどり無し。みどりの後にみどり無し。





余裕がある人はオマケも見ていってね



思っていたより長い記事になってしまいました。ここで終わるつもりだったんですが、関連動画を思い出したので探してきました。
6年前にアップしたこの動画、今これを貼り付けてる時点で再生数2,419回。少なっ!
てなわけでせっかくこの記事を読むところまでたどり着いた人はついでに埋もれかけのお宝映像をぜひ見ていってください。


これは優勝が決まった後、現地・パリでのこれまでのみどりの軌跡を振り返る的インタビューです。
あら、なんで隣にまだショートカットにする前の15位のイモくさいずんこさんがいるんでしょうか。多田アナが思わずダイレクトに口にしてしまいました。

多田アナ 「一緒にいた八木沼さんね、今日はもうアレですね、

 引き立て役でごめんなさいねー

ずんこ 「えぇぇーー!」
(リアクションに困ってうつむくみどり)


多田アナ、同席させておいて情け容赦なし。非情。
「なんで私こんなところに座らされているのかしら」といった居心地悪そうなずんこさんの目が泳いでいます。
改めてこれを見るといかにずんこが孤軍奮闘でみどりが取ってきた枠の恩恵にあずかってワールドに出ていたかが如実にわかるなー、一度も一桁の順位なしかーってさっきWikiは全部信用するもんじゃないって書いた舌の根も乾かないうちにWiki引用www
しかしこんなずんこさんが後にPIWの座長になり今ではなぜか解説者として一番引っ張られているんだから世の中どうなるかわからんもんだ。
「んーこれも高いっ!」ってみどりのジャンプを直に見てきたチミの目は節穴かね。

インタビューの中でトリプルフリップの話が出てきてますね。平松さんの「これもセンコウ!」の。
前年秋のNHK杯では見事なトリプルアクセルを成功させたものの、次のフリップは乱れたんだよね。(ちゃんと回りきった後でよろけただけなんだけど) だから平松さんの「センコウ!」は気持ちわかるのよー。「トリプルアクセル成功で気を緩めずに、慎重に!」ってね。
トリプルアクセルだけじゃないからみどりは!トリプル5種類キッチリ揃えるのもままならぬ時代に6種類って!宇宙人だ宇宙人!!

11歳で3S-2Tですよ!よぉぉぉーーく耳を澄ますと解説の声は渡部絵美さんです。
3:55、貴重な信夫先生とのツーショット!(たまたま)

TBS、お宝いっぱい倉庫に眠ってんのね・・・ぜーんぶ蔵出ししちゃっていいのよ?
記事書きながら私もいろんなことが思い出されて。
伊藤みどりは人間国宝・世界遺産です。



 
2 件のコメント :
  1. わ~、RQさま、ありがとうございます。
    今、改めて見ても感動しますね。この時の演技は。
    みどりちゃんに続いてハーディングがトリプルアクセルを決め、
    クリスティ・ヤマグチが3ルッツー3トゥループを決めた時代のほうが
    今よりも技術面では進んでいたかもしれない(?)、またそういう時代が
    来るだろうと思っていたのに、トリプルアクセルにチャレンジする選手が
    こんなに少ないなんて、この時私は予想できませんでした。
    3Tー3Tを後半に決める選手も未だに出てきません。
    みどりちゃんは、世界遺産。本当にそうですよ!!

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  2. ねー、もう四半世紀ですってよ!ヤンナッチャウワー
    翌年のワールドでハミルトンが
    「ミドリのような選手はあと50年しないと出てこないだろう」って、
    この先3A-2Loとか3A-3T試合で決める女子選手が出てこようが
    みどりの前にみどり無し。みどりの後にみどり無し。 です。



    ハーディングは後にあんな事件を起こしてしまったのは本当に残念でしたが、
    「みどりが引退した後は女子でも3Aを跳べる選手が続々出てくるようになる」
    と思わせたのはハーディングがみどりのすぐ後に続いて跳べたからってのは当然ありますね。
    クリスティもペアと掛け持ちって今じゃ考えられないハードなことやってたってこともあって、
    サルコウを苦手にはしていたものの技術的には元々高度なものを持ち合わせていました。
    みどりが引っ張って全体の底上げをして、さらにライバルがそれに負けじと付いていったからこそみどり自身もさらに慢心することなく自分を磨くことができたのではないでしょうか。


    深夜のテレビっていうのはイカ天ですよね。
    放送がない地域だったので(´;ω;`) 翌日日曜の午後に放送されたのを見ましたよ。


    どういった事情があるのかはわかりませんが今年のアダルトコンペの不参加は非常に残念ではあります。
    来年こそはまた明るい笑顔で滑る姿を見たいですね。
    みんなが期待して待っています!

    返信削除

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